AIが債券市場に与える影響力の拡大
人工知能(AI)をめぐる投資家の関心は株式市場に非常に集中しており、テクノロジー企業が中心となるナスダック総合指数は過去1年間で何度も史上最高値の更新を続けています。 しかしながら、債券市場もAIブームによって良い影響を受けつつあるようです。 投資家心理やAIがマクロ経済に及ぼす影響に加えて、AI技術が債券市場に影響を与える要因はいくつも存在します。 ここでは、成長するテクノロジー企業による債券の発行、発行体となる企業のビジネスモデルの変革、そしてAIの発展による投資プロセスの強化の可能性、という3つの論点について取り上げます。 債券の発行拡大 主要な株価指数において、テクノロジー企業に時価総額が集中していることはよく知られています。一方で、債券市場にはそういった集中は見られず、債券指数におけるテクノロジー企業のシェアは限定的なものにとどまっています。 ICEデータ・インデックス社が公表しているグローバル社債指数において、テクノロジーおよび電子機器セクターの占める比率は4.8%にとどまっています。テクノロジー分野での設備投資が市場の話題となる昨今の状況においても、その比率は数年前から大きく変わっていません。また、米投資適格社債の市場での比率は7%程度となっていますが、欧州ではこの比率はもっと低く、世界のハイイールド債市場でも5%程度にとどまっています。 しかし、債券の発行は増加傾向にあります。昨年、いわゆる「ハイパースケーラー」(大手のクラウドサービス事業者)が複数の大規模な債券発行を通じて、AIインフラの拡張を支援するため巨額の設備投資を行っています。 米国では、テクノロジーおよび電子機器セクターが発行した社債の金額は3月までの1年間で11%拡大し、約6850億ドルに達しました。企業側の見通しによれば、設備投資の増加に減速する兆しは見られず、今後も拡大する動きが続くと予想されています。 こうした資金調達の大部分は米国で行われていますが、発行体はユーロやポンドの投資適格市場にも参入しています。グーグルの親会社アルファベットは、今年2月に史上最大規模規模の債券発行を行い、この中には償還年限100年の社債(英ポンド建て、利率6.125%)も含まれています1。 それ以外の事例では、フェイスブックを運営するメタが昨年米国市場で300億ドルを調達したほか、米オラクルも多くの社債発行による資金調達を行っています2。 こうした巨大テクノロジー企業にとっては、好調な株価がクレジットの基盤となっているようです。これらの企業は力強い利益成長、堅実なバランスシートを持ちながら負債が限定的で、信用格付けが相対的に高い発行体と考えられます。テクノロジーセクターの拡大は、金融セクターや景気循環的な資本財・サービスセクターに偏りがちな債券指数の分散度を高めることから、投資家にとって歓迎すべきものです。 債券市場において、テーマ型投資はさほど一般的ではありませんが、クレジットの質や評価の高いテクノロジー企業の発行増加は、投資家の支持を得る可能性がありそうです。そのクーポンの水準は良好で、力強い利益成長に支えられています。投資家の多くはすでに株式保有を通じてテクノロジー企業を理解しているため、より予測可能なリターンをもたらすAIを推進する大手企業が発行する社債には、投資家の関心が集まることも予想されます。 債券における創造的破壊 AIがタスクの自動化や効率性の向上、プロセスの迅速化を通じてビジネスモデルを変革できるという根拠は多く存在しています。 2026年初めには、ソフトウェア企業、例えば顧客管理システムなどのアプリケーションプロバイダーが、AIによる迅速なコーディングや商品開発能力によって、ソフトウェア製品の価値が損なわれかねないとして、市場の注目が集まりました。テクノロジーのエコシステムは複雑ですが、小規模企業の方がこうした創造的破壊の影響を受けるリスクは高いかもしれません。実際に、この分野の中小企業にとって資金調達源となっている高利回りのレバレッジドローンやダイレクトレンディング市場でも懸念されていました。 すでに指摘した通り、債券市場は株式市場よりもセクターが分散されています。テクノロジーセクターは米ハイイールド債市場の約5%に過ぎず、ソフトウェアに限れば3.5%程度です。年初にソフトウェアサービスに対するAIの創造的破壊という懸念が浮上する中で、同セクターのスプレッド(信用格差による利回り差)は拡大しました。 しかしながら、AIによってビジネスモデルが脅威にさらされやすい発行体と、テクノロジーセクターに属するだけで影響を受けにくい発行体があるため、投資家はどの発行体が脆弱なのかを区別することが必要となります。ゲームやメディアといったセクターでも、AIによる創造的破壊の影響を受ける発行体はあるでしょう。だからこそ、アクティブ運用を行う債券投資家は、キャッシュフローが脅かされ、格付けが低下しデフォルトリスクが高まる可能性のある発行体を見極めることに重点を置かなければなりません。 繰り返しになりますが、同セクターへの懸念が行き過ぎる状況には注意が必要です。まだ比較的小さなセクターであり、すべてのテクノロジー企業がリスクを抱えているではありません。テクノロジーへのエクスポージャーは、レバレッジドローンやダイレクトレンディング市場により集中しており、公開市場におけるハイイールド債ではこうした集中はみられていません。 投資プロセスの強化…
27/04/26
