- AIに関する関心のほとんどは株式に集中しているが、AI技術は債券の発行、ビジネスモデルの創造的破壊、投資プロセスの強化を通じて債券市場にますます大きな影響を与えている
- AIインフラを支援するテクノロジー企業による大規模な債券発行が増加しており、分散と利回り追求の投資機会をもたらしている
- AIはビジネスモデルやポートフォリオ管理を変革しており、債券投資家にとっての課題となる一方、分析や取引、リスク管理を改善するための新たなツールももたらしている
人工知能(AI)をめぐる投資家の関心は株式市場に非常に集中しており、テクノロジー企業が中心となるナスダック総合指数は過去1年間で何度も史上最高値の更新を続けています。
しかしながら、債券市場もAIブームによって良い影響を受けつつあるようです。
投資家心理やAIがマクロ経済に及ぼす影響に加えて、AI技術が債券市場に影響を与える要因はいくつも存在します。
ここでは、成長するテクノロジー企業による債券の発行、発行体となる企業のビジネスモデルの変革、そしてAIの発展による投資プロセスの強化の可能性、という3つの論点について取り上げます。
債券の発行拡大
主要な株価指数において、テクノロジー企業に時価総額が集中していることはよく知られています。一方で、債券市場にはそういった集中は見られず、債券指数におけるテクノロジー企業のシェアは限定的なものにとどまっています。
ICEデータ・インデックス社が公表しているグローバル社債指数において、テクノロジーおよび電子機器セクターの占める比率は4.8%にとどまっています。テクノロジー分野での設備投資が市場の話題となる昨今の状況においても、その比率は数年前から大きく変わっていません。また、米投資適格社債の市場での比率は7%程度となっていますが、欧州ではこの比率はもっと低く、世界のハイイールド債市場でも5%程度にとどまっています。
しかし、債券の発行は増加傾向にあります。昨年、いわゆる「ハイパースケーラー」(大手のクラウドサービス事業者)が複数の大規模な債券発行を通じて、AIインフラの拡張を支援するため巨額の設備投資を行っています。
米国では、テクノロジーおよび電子機器セクターが発行した社債の金額は3月までの1年間で11%拡大し、約6850億ドルに達しました。企業側の見通しによれば、設備投資の増加に減速する兆しは見られず、今後も拡大する動きが続くと予想されています。
こうした資金調達の大部分は米国で行われていますが、発行体はユーロやポンドの投資適格市場にも参入しています。グーグルの親会社アルファベットは、今年2月に史上最大規模規模の債券発行を行い、この中には償還年限100年の社債(英ポンド建て、利率6.125%)も含まれています1。 それ以外の事例では、フェイスブックを運営するメタが昨年米国市場で300億ドルを調達したほか、米オラクルも多くの社債発行による資金調達を行っています2。
こうした巨大テクノロジー企業にとっては、好調な株価がクレジットの基盤となっているようです。これらの企業は力強い利益成長、堅実なバランスシートを持ちながら負債が限定的で、信用格付けが相対的に高い発行体と考えられます。テクノロジーセクターの拡大は、金融セクターや景気循環的な資本財・サービスセクターに偏りがちな債券指数の分散度を高めることから、投資家にとって歓迎すべきものです。
債券市場において、テーマ型投資はさほど一般的ではありませんが、クレジットの質や評価の高いテクノロジー企業の発行増加は、投資家の支持を得る可能性がありそうです。そのクーポンの水準は良好で、力強い利益成長に支えられています。投資家の多くはすでに株式保有を通じてテクノロジー企業を理解しているため、より予測可能なリターンをもたらすAIを推進する大手企業が発行する社債には、投資家の関心が集まることも予想されます。
債券における創造的破壊
AIがタスクの自動化や効率性の向上、プロセスの迅速化を通じてビジネスモデルを変革できるという根拠は多く存在しています。
2026年初めには、ソフトウェア企業、例えば顧客管理システムなどのアプリケーションプロバイダーが、AIによる迅速なコーディングや商品開発能力によって、ソフトウェア製品の価値が損なわれかねないとして、市場の注目が集まりました。テクノロジーのエコシステムは複雑ですが、小規模企業の方がこうした創造的破壊の影響を受けるリスクは高いかもしれません。実際に、この分野の中小企業にとって資金調達源となっている高利回りのレバレッジドローンやダイレクトレンディング市場でも懸念されていました。
すでに指摘した通り、債券市場は株式市場よりもセクターが分散されています。テクノロジーセクターは米ハイイールド債市場の約5%に過ぎず、ソフトウェアに限れば3.5%程度です。年初にソフトウェアサービスに対するAIの創造的破壊という懸念が浮上する中で、同セクターのスプレッド(信用格差による利回り差)は拡大しました。
しかしながら、AIによってビジネスモデルが脅威にさらされやすい発行体と、テクノロジーセクターに属するだけで影響を受けにくい発行体があるため、投資家はどの発行体が脆弱なのかを区別することが必要となります。ゲームやメディアといったセクターでも、AIによる創造的破壊の影響を受ける発行体はあるでしょう。だからこそ、アクティブ運用を行う債券投資家は、キャッシュフローが脅かされ、格付けが低下しデフォルトリスクが高まる可能性のある発行体を見極めることに重点を置かなければなりません。
繰り返しになりますが、同セクターへの懸念が行き過ぎる状況には注意が必要です。まだ比較的小さなセクターであり、すべてのテクノロジー企業がリスクを抱えているではありません。テクノロジーへのエクスポージャーは、レバレッジドローンやダイレクトレンディング市場により集中しており、公開市場におけるハイイールド債ではこうした集中はみられていません。
投資プロセスの強化
債券のリサーチ、トレーディング、ポートフォリオ構築といったプロセスはすべてAIによって強化されます。クレジット市場では、大規模言語モデル(LLM)や自然言語処理の利用により、発行体のファンダメンタル分析は大幅に向上し、アルファの生成や発行体の価値を比較するために活用可能な情報を検出することも可能になるでしょう。
債券の発行体からシグナルを抽出し、発行体やポートフォリオレベルで重要な投資判断をくだすことは、AIによって容易になることが見込まれます。トレーディングはすでに大部分が自動化されており、近年の社債市場の流動性の改善にも寄与しているとみられます。
ポートフォリオ・マネージャーにとっては、AIによって強化されたリサーチや、資産価格に関する主要な情報を見極める技術を活用することで、債券ポートフォリオのリスクや流動性プロファイルの効率的な管理が見込まれます。
債券2.0の時代
AIの台頭によるテクノロジー企業の債券発行の増加により、債券投資家にとっては技術革新が生み出すキャッシュフローにアクセスすることが可能になります。長期的に見れば、この投資によって生み出される資産(最終的には債券の価値を支えるものとなります)が、強力なバランスシートと健全な信用格付け、株式市場での高い評価倍率やリターンを維持するだけの資本収益率をもたらせるかどうかにかかっています。現在の世界の状況を踏まえると、この技術革命に逆張りすることは、むしろリスクの高い戦略となる可能性があります。
[1] Alphabet sells rare 100-year bond to fund AI expansion as spending surges | Reuters
[2] Meta to raise $30 billion in its biggest bond sale as AI expansion costs rack up | Reuters
企業への参照は例証のみを目的としており、個別銘柄への投資を推奨するものではありません。
過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。また、記載内容は、2026年4月20日現在の資本市場を説明したものであり、特定の金融商品への勧誘や推奨を意図したものではありません。
(オリジナル記事は4月27日に掲載されました。こちらをご覧ください。)