覇権をめぐる動き(及び石油と半導体)
投資家にとって、昨年から引き続き地政学リスクや政策リスクが懸念事項となっています。それに関して、AXA IM Core Investments のCIOであるChris Iggoは、以下の見解を示しています。 筆者(私)は年初に、あるポッドキャストを聴きました。その冒頭の発言は「昨年は本当に大変な一年だった」でした。確かに、世界では様々な出来事がありました。世界的な安全保障と政治情勢の変化を考えると、地政学的リスクと政策リスクは投資家にとって今後常に懸念材料となるでしょう。こうした出来事は市場のボラティリティ(変動)を高める可能性がありますが、短期的な経済への影響を見極めることは困難だろうと考えています。基本的な見方として、世界経済は依然としてプラス成長で、インフレは緩やか(一部中央銀行の目標を上回っているとはいえ)、金利緩和サイクルはもう少し続くと予想されています。そのため、投資リターンは昨年と比べると緩やかになる可能性はあるものの、堅調に推移しています。一方、投資家は安全保障、自律性、サプライチェーン(供給網)の耐久力といった主要テーマに注目するでしょう。 全ては米国 2026年初頭以降の地政学的展開は、昨年12月に公表された国家安全保障戦略(NSS)に示された米国の外交政策アプローチの文脈で捉えるべきでしょう。この戦略は、「米国第一主義」が米国の外交政策を牽引する原則であると明確に示しました。ベネズエラへの介入は戦略が目指す西半球への影響力拡大に合致し、グリーンランドの鉱床への接近は戦略上の経済安全保障と整合するものです。北大西洋条約機構(NATO)やその他の国際機関の将来に対する潜在的なリスクは、「国家の優位性」と「主権と尊重」の原則に合致すると解釈できるでしょう。投資家として、私たちは世界のパワーバランスの変化が市場、貿易、投資フローに影響を及ぼすリスクに敏感になる必要があると考えます。少なくとも、米国の政策の兆候は投資家心理や市場のボラティリティに影響を与える可能性があるとみています。また、より長期的で、より深刻な影響も考えられます。 いつも、石油 テーマは数多くあります。石油市場は、ベネズエラの石油埋蔵量をめぐる米国の野望とイランにおける政変の可能性、その両方から影響を受ける可能性があり、どちらも世界の石油供給動向の変化につながるでしょう。結果として、原油価格の下落の可能性が考えられます。そこから、インフレと金利、貿易収支、産油国の政府歳入、そして再生可能エネルギーと化石燃料について相対的な経済性に影響が広がると考えられます。短期的には、イラン情勢の悪化によって原油価格が反射的に上昇し、他の市場にも波及する可能性があるとみています。 米ドルへの脅威 米ドルに対する見通しも興味深いものがあります。1970年代初期以降、オイルダラーの枠組みは、米ドルが世界の準備通貨として果たす役割を支えてきました。石油やその他コモディティ(原材料や一次産品)は米ドルで価格付けされているために、大量の米ドルが世界各地に供給されていきました。米ドルは、米国債などの資産購入に向けられ、米国に還流し、そのおかげで、高水準の消費や政府(防衛)支出の結果生じる米国経常赤字を埋める資金を調達することができてきました。ブルネロ・ローザ氏は著書「スマート・マネー」の中で、米ドルに対する脅威はほぼ中国の世界的な拡張から生まれると概説しました。中国の一対一路構想や中国人民銀行のデジタル通貨開発のような政策を通じて、中国は世界の貿易用決済に中国元の使用をゆっくりと増やしています。世界のサプライチェーンとコモディティをコントロールすることは、世界の通貨覇権と密接に関係しています。 ドルの準備通貨としての地位が最終的に脅威にさらされるまでには、まだ長い道のりがあるとみています。しかし、世界のパワーバランスの二極化が進むとともに、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の使用が増加すると、脅威となります。世界の石油供給シェアの拡大に影響力を持つことは、こうしたリスクに対する有効な手段であり、特にサウジアラビアなど主要石油生産国との戦略的関係を維持することも有効でしょう。しかし、米ドルにとって地政学的なリスク以上のリスクがあります。米国政府財政の悪化や金融政策に対する政治的圧力、また、政治や政策の不確実性に呼応して世界の投資家が米ドルへの配分を削減しようとする可能性なども考慮する必要があるでしょう。金や銀、白金の価格(ドル建て)上昇は、地政学的リスクや米国経済政策関連リスクを反映しているとみています。米国にとって大きな脅威とは、ドルに対する信認が低下して、米国の双子の赤字を補うための資金調達コストが増加することと考えています。米国債利回りが上昇すると、すでにバリュエーション(投資尺度)が割高の水準で取引されている株式市場には悪材料となるかもしれません。 AIをコントロール 米国と中国の世界的な勢力争いは、テクノロジー分野において最も顕著です。NSSは、重要なサプライチェーンと鉱物資源確保に加え、エネルギー分野での優位性の確立(ただし気候変動への対応は拒否)、防衛産業の強化、そして米国金融セクターの優位性の維持を重視しています。サプライチェーンの支配は世界の大国にとって最優先事項であるため、コモディティ価格が全般的に上昇しているのは当然のことでしょう。貴金属に加え、銅やアルミニウムなどの価格も昨年大幅に上昇しました。レアアース(希土類)や情報技術部品、特に半導体の確保は、世界経済の優位性にとって不可欠とみています。そのため、(半導体製造の中心地である)台湾の将来は、金融市場にとって依然として重要な地政学的考慮事項となっています。 紛争への限界 これらはすべて非常に興味深く、世界経済の動向に重大な影響を及ぼす可能性があります。世界秩序が多国間主義から多極(あるいは二極)体制へと再編される中で、最も壊滅的なシナリオの実現を阻止できるのは、おそらく相互確証破壊(MAD)1の原理でしょう。米国債の大量投げ売りや中国の台湾吸収といった最後の手段は、世界経済の混乱、あるいはそれ以上の事態を引き起こす可能性が高く、直ぐに勝利できる国はないでしょう。したがって、市場ではこれらのテールリスク(発生確率は低いものの、発生すると市場に大きな悪影響を及ぼすようなリスク)を引き続き懸念することになりますが、危険なことは、地政学的な要因が市場にゆっくりと及ぼす影響を見逃してしまうことと考えています。 現実と戦略 この進化する世界において、実物資産と戦略資産への投資には強力な実例があります。金と銀が現状その例を示していますが、他のコモディティも同様にその可能性を秘めており、食料生産・流通、エネルギー、水もこの例に含まれるかもしれないと考えています。見られる通り、防衛は他セクターを上回る可能性が高いとみています。人工知能(AI)の焦点が開発から導入へと移行していることも、より重要になるでしょう。AIを活用することは、多くのデータセンターを持つことや最高の大規模言語モデルを持つことよりも、最終的には重要になるとみているからです。こうしたトレンドの多くを支えているのは、二極化した世界秩序の両側における国家安全保障上の利益です(ロシアも重要ですが、ロシアは2022年に署名された「無制限」協定の条項に基づき、中国と足並みを揃えています)。 景気循環的には、市場の見通しは依然良好…
16/01/26