Sébastien Taldir

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テクノロジーが欧州の戦略的自立にとってカギとなる理由

欧州は地域の利益を守りながら経済成長を目指すため、防衛や製造業、エネルギー、食料、ヘルスケアにいたる多くの分野に注力し、投資を拡大しています。その中でも、欧州の戦略的自立にとって基盤となる重要な分野がテクノロジーです。 人工知能(AI)に限らず、防衛、通信、宇宙探査などいずれの分野においても、国や地域がイノベーションを起こし、競争力を高め、自衛し、経済的独立を維持することを可能にするのはテクノロジーです。こうした考えが欧州の政策に反映され、欧州のテクノロジーセクター全体にとっても大きな投資機会をもたらしています。 AIとデジタル主権 欧州の戦略的自立に向けて、デジタルインフラの確保、データ保護に加えて、テクノロジー機器・部品を域外のサプライヤーや製造業者に依存し過ぎないことも求められます。 欧州の政策当局はこうした課題に対処するために断固たる措置を講じています。例えば、「欧州半導体法(EU Chips Act)」は、欧州の半導体市場シェアを20%まで倍増し、競争力を高めるとともに、サプライチェーンの混乱を引き起こさないようにすることも目指しています1。 最近では、2025年の「AI大陸行動計画」など、欧州をAIにおける世界的リーダーにすることを目指した取り組みも始まっています。この取り組みには、大規模なAIデータセンターやコンピューティング・インフラの提案に加えて、高品質データへのアクセス拡大、戦略分野におけるAI導入の促進、AI人材のスキル強化などが含まれています2。 また2025年には、欧州委員会が主導する「InvestAI」という取り組みも始動しました。これはAIへの投資に2000億ユーロを動員する取り組みで、AIギガファクトリーの設立のための200億ユーロの民間投資基金も含まれています。 これにより、リソグラフィーや堆積(成膜)といったマイクロチップ回路を構築するための主要な工程に関わる欧州の半導体機器企業は、高性能計算やAIハードウェアの需要増加から恩恵を受ける可能性があります。AIモデルの複雑さが増す中で、こうした高度な製造ツールへの需要が急拡大し、さらなる投資機会が創出されるとみています。 光ファイバー通信、レーザー切断、環境センサーに用いられるフォトニクスも、より高速で効率的なデータ転送が必要とされる中で、欧州企業が優位性の持つ分野の1つとなっています。 AIは医療から金融にいたるまで、さまざまな産業を変革する可能性を秘めています。米国のテクノロジー大手企業がこの分野で先行しているものの、欧州にもAI技術開発のリーダーになりうると考える企業が出てきています。 半導体機器メーカーやソフトウェア・プロバイダー、データセンターなどのインフラ構築や、それらを稼働させるために必要な発電などの関連サービスに関わる企業まで、投資機会は多く存在しています。 防衛における重要な側面としてのテクノロジー 最先端技術は防衛にとっても重要な一部となります。例えば、先進的な軍用機は最新のチップ、センサー、AIシステムに大きく依存しています。最先端の部品が調達できなければ、競争力のある軍事装備を生産・維持することができないため、テクノロジーは欧州の安全保障と自立にとって極めて重要です。 EUの防衛費は2025年に過去最高の3,800億~3,900億ユーロに達すると予測されています。これは2024年の水準から11%増加し、2020年のほぼ倍の水準となります3。コンサルティング会社マッキンゼーは、欧州の防衛費は2035年までに8000億ユーロに近づくと予測しており、この流れはさらに加速する可能性があります4。 さらに、世界のクリーン技術の5分の1以上はEU域内で開発されており、欧州委員会は風力タービン、電解槽、低炭素燃料の開発において、欧州が世界をリードしていると指摘しています5。 さらに遠く(あるいは上方)を見据えれば、宇宙セクターにおいても、相互接続性と安全保障の両面で戦略的なフロンティアとなり、新たな投資機会を創出しています。欧州は約290基の衛星群「IRIS²」の開発を計画しており、通信や接続性、危機管理、安全保障、防衛などの用途に加えて、輸送、エネルギー、金融、医療といった様々な商業用途も可能になります6。 宇宙がより身近なものとなり、商業化が進む中で、衛星の製造、打ち上げサービス、宇宙データ分析など革新的なソリューションを提供できる欧州企業は恩恵を受けることが見込まれます。 テクノロジーが主導する長期の戦略的な道のり…

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欧州の戦略的自立への投資:長期の構造的なテーマに関する現状と見通し

地政学的緊張および不透明な経済見通しは、戦略的自立の重要性を強調しています。つまり、各国が他国に依存することなく、安全保障および経済拡大を確保しつつ独自の政策決定を下すことができるという考え方です。 新型コロナウイルスの感染拡大、ウクライナ戦争、貿易戦争、中東紛争といったパーマクライシス(危機の常態化)を背景に、欧州にとって戦略的自立を実現する必要性が浮き彫りになりました。地政学的状況が変化する中で、欧州では経済成長の促進、サプライチェーンの保護、イノベーションおよび競争力の向上、そして安全保障の確保を目指す動きが強まっています。 欧州が自立性をもって行動するためには、食料、医療、エネルギー、産業、テクノロジー、防衛といった主要分野において、域外への依存を減らす必要あります。こうした主要分野は相互に関連しあっており、そのすべてに共通する重要なテーマが「テクノロジー」です。高度な防衛能力から、低炭素社会への移行を支えるスマートグリッドにいたるまで、テクノロジー・インフラは欧州の戦略的自立にとって極めて重要なものと考えられます。 投資の中心に位置づけられる構造的なテーマ 当社の試算によれば、欧州の自立性を向上させるために、2035年までに欧州全域で約1兆5000億ユーロの投資が行われる見込みです。この投資額には、以下の計画が含まれています。 これらのセクターに関連する企業は、大規模な投資計画による支出・開発の拡大から恩恵を受けることが見込まれるため、多くの潜在的な投資機会があると見ています。これは長期の構造的なテーマであり、投資家はリターン獲得の機会を高められると同時に、欧州の戦略的自立に向けた取り組みへの資金調達に貢献することも可能になります。 ただし、戦略的自立への道のりは必ずしも平坦なものではなく、停滞したり、計画に遅れが生じたり、国家間​​の対立につながる恐れもあります。戦略的自立に向けたペースは加速させる必要があるかもしれませんが、それでも欧州は正しい方向に進んでいることに疑いはありません。 欧州のガバナンス分野での進展は、まさにその具体例と言えます。欧州では規制や政策が断片化しているため意思決定に時間がかかるという課題が表面化しており、その点の改善が必要であるという認識が高まっています。 フランスとドイツが最近提案した「E6」構想は、欧州の主要6カ国が結集し、欧州地域の競争力および防衛能力の強化を目的としたものですが、欧州のガバナンスが転換しつつあることを如実に示しています1。この計画では、27の加盟国における意思決定が遅いという根本的な課題を克服し、中核となる国々が経済的および戦略的な優先事項においてより迅速にプロセスを進めることが期待されています。 防衛分野の波及効果 欧州連合(EU)は鉄鋼産業を保護するために、輸入割当量の引き下げや関税の引き上げといった措置を講じている一方で2、EU加盟国は防衛費を急速に増加させており、一部の国は2035年までに北大西洋条約機構(NATO)が定めるGDP比3.5%という目標を達成する見込みです。「Readiness 2030」は総額8,000億ユーロ規模の共同投資計画ですが、EU諸国は2025年に3,920億ユーロを防衛費に支出したと推定されるなど、コミットメント達成に向けて力強い進展を見せています3。 欧州防衛庁(EDA)によると、防衛費に占める投資の割合は増加しており、研究開発費の割合も急増しています4。欧州の産業界にはこうした防衛支出の波及効果が現れ始めており、生産回復に寄与しています。EUは、長期融資を通じた資金提供を行う「欧州安全保障行動プログラム(SAFE)」など、投資拡大を促進するための新たな枠組みを採用しました。軍事費は欧州GDPの2.5%に達すると予測されており (2年間で0.6ポイントの増加)、EU加盟国の4分の3以上が従来のNATOの目標であったGDP比2%を超える見込みとなっています5。 防衛に加えて宇宙というテーマが、今後数十年の経済的繁栄および戦略的重要性の観点から、地政学の焦点として浮上しています。欧州宇宙機関(ESA)は、宇宙技術および宇宙ミッションにおける欧州の戦略的自立を強化することを目指し、2026年から2028年までの予算として過去最高となる220億ユーロ(前年比30%以上の増額)を承認しました6。 より最近の動きとしては、中東紛争により、とりわけ欧州において、資源の自給およびエネルギー安全保障の重要性が改めて認識されるようになりました。 欧州は2021年以降、液化天然ガスの増加に加えて、天然ガスの在庫水準の維持やサプライヤーの拡大を通じてエネルギーミックスの多様化を進めてきました。しかし、とりわけガスに関しては、世界市場およびアジアとの競争の影響を依然として受けやすい状況にあります。 今後、クリーンエネルギーへの移行を支援するリパワーEUプロジェクトが加速し、エネルギーネットワークへの投資、原子力発電の復活、再生可能エネルギーの開発が進めば、欧州におけるエネルギーミックスの強靭性につながることが期待されます。 これらの欧州内での各種提案・決定は、すべてを網羅しているわけではありません。それでも、欧州がガバナンスのアプローチにおいて前進しており、戦略的自立に向けて具体的な行動を起こしていることを示していると言えるでしょう。 欧州の新たな章の始まり…

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欧州の戦略的自立:長期的な投資機会

欧州は、戦略的自立の追求を一段と深化させています。パンデミック後の政策スローガンとして始まったこの流れは、いまや実際の資金配分を伴う現実的な取り組みへと発展し、投資面でも明確な意味を持つようになりました。現在、欧州は防衛、産業のレジリエンス(耐性)に加えて重要なテクノロジー分野に、年間で数十億ユーロ規模の資金を継続的に投じています。 かつては後回しにされがちだった欧州の防衛分野ですが、いまや最優先課題となりつつあります。実際、ロシア・ウクライナ情勢に加え、最近では 米国のドナルド・トランプ政権によるNATO加盟国への圧力を背景に、2022年以降、欧州が防衛に投じる資金は大幅に増加しています¹。 しかし、これはまだ始まりにすぎません。2025年6月にハーグで開催されたNATO首脳会議では、加盟国が2035年までに、主要な防衛ニーズに対してGDP比3.5%、さらに防衛・安全保障関連支出としてGDP比1.5%を毎年投資するというコミットメントを共有しました²。 これらの大胆な目標について、市場は一定の慎重姿勢を示しました。すでに公的支出の膨張に苦慮している国も多く、国によってはこれほどの追加支出に消極的だったためです。しかし、全体として進むべき方向性は明確です。とりわけ EUの「欧州再軍備計画/2030年への備え(ReArm Europe Plan/Readiness 2030)」(総額8,000億ユーロ規模)など、この目標達成を後押しする複数の計画がすでに存在しています³。今後、欧州の安全保障関連支出は長期にわたり増加していく見通しであり、投資家にとって新たな機会を生み出す可能性があるとみています。 投資対象市場 最近の調査によると、欧州の投資家がアクセスできる投資対象市場の数は、2030年まで年間約29%のペースで拡大する見通しとなっています⁴。欧州防衛庁(EDA)のデータを用いた試算では、2030年にGDP比3%を防衛に充当するという前提(NATO合意の3.5%より控えめだが、従来の2%からは引き上げ)を採用し、防衛関連の構成内容について、欧州企業による調達比率65%という目標を織り込み、さらに、防衛支出のうち「人件費」よりも「装備品」への配分比率をやや引き上げる、といった調整が行われているようです⁵。 2022年以降、当該セクターの評価は大きく見直されてきましたが、依然として米国の同業他社に比べて割安な水準にあり、その成長率は、欧州他のセクターを大きく上回っています: 成長率を踏まえて当該サブセクターのバリュエーションを評価すると、市場全体と比較しても依然として割安な水準にあるとみられます。 短期的には、ウクライナとロシアの停戦の可能性を巡る相反する報道により、相応のボラティリティが生じる可能性があるため、投資家は注意が必要でしょう。しかし、直近の決算報告や受注残の状況は市場を安心させるもので、たとえば、最近ティッセンクルップからスピンオフした海洋防衛企業TKMSは、2040年まで続く受注残を抱えていることが明らかになっています⁶。 同時に、欧州防衛産業の再編が進展しており、その動きは複数の事例から明らかになっています。たとえば、TKMSのスピンオフ、ラインメタルによるナーバル・ベッセルズ・ルッセン(Naval Vessels Lürssen)の買収、さらにはエアバス/タレス(Thales)/レオナルド(Leonardo)の宇宙関連事業を統合するブロモ(Bromo)衛星プロジェクトなどが挙げられます。これらの動きは、いずれも防衛セクターにおける新たな投資機会の創出につながる可能性を示しているとみています。 資本財、IT、公益事業、基礎資源:主権への長い道のり 資本財、情報技術(IT)、公益事業、基礎資源といったセクターは、サプライチェーンの脆弱性、とくに半導体、エネルギー、グリーン/デジタル移行に不可欠な重要原材料の分野におけるリスクへ対応するうえで、重要な柱となります。こうした取り組みを支援するため、すでに複数の政策や計画が策定・実行されています: さらに長期的な視点では、2025年7月に欧州委員会が提案した2028〜2034年を対象とする「次期EU多年度財政枠組み(MFF)」が重要です。この枠組みでは、EUの戦略的自立とレジリエンス強化を目的として2兆ユーロの予算が計上されています。これは、7年間におけるEUのGDPの1.26%に相当し、前回(2021〜2027年)の1兆ユーロ規模から倍増となります¹³。この計画には、クリーンエネルギー、デジタル移行、バイオテクノロジー、防衛といった戦略的技術領域を支援するため、4,090億ユーロ規模の「欧州競争力基金」…

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